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煙々、延々と、二人語り


 カシッカシッ、と二度ほど擦ってみても、ジッポが火を吐き出すことはなかった。そこでようやく、オイルが切れていることに気がつく。
 煙草を咥えていた全身真っ赤な服装の女性――岡崎夢美は、その整った顔を露骨に顰めて小さく呻いた。しまったー、と呟いてからジッポを懐に収める。
 彼女がいるのは、学内でも数少ない喫煙所の一つである。ガラスで囲まれた、決して広いとはいえない場所を、スタンド灰皿と大きな吸煙機がなおさら狭くしている。
 この科学世紀において、彼女の口元にあるような古くて煙臭い紙巻煙草を吸っている人物は稀も稀。今では煙を介さずにニコチンそのものを効率的、且つ周囲に気遣うことなく吸引できる、俗に言う『電子たばこ』のようなものが広く出回っている。
 もっとも、電子たばこという物自体はかなり昔からあったのだが、昨今のそれはさらに『良い物』になっているらしい。煙も出ず、熱もないので火傷や火事の心配もない。
 煙草以上にニコチンを効率的に摂取できるというそれは、その時の喫”煙”者達にとっては良くも悪くも衝撃的だった。当初はなにかしらの有害性や副作用など、不安の声も挙がっていたが、そもそも、彼らは喫煙者である。健康への害など、今更の話であった。
 実際問題、これといった有害性も見つからず――多少中毒性が高いという問題はあったが――、今ではほとんどの喫”煙”者達はそちらに移行した。それによって喫煙所の需要は激減し、設備は旧式なままにその領域だけがコンパクトにされてしまった。
 紙巻の煙草はもはや、一部の懐古主義や物好きしか嗜む者はいない。

 岡崎夢美は、その両方に当てはまる奇特な人物であり、そしてそれ故に、現在このような状況に陥ってしまっている。

 とはいえ、つい先日まではわざわざ喫煙所まで赴かず、彼女は自らの研究室で煙草を吹かしていた。それも結構な頻度で。そんな彼女がなぜ、今日に限って喫煙所にいるのかと言うと、全て説明するには少しばかり長くなる。
 端的に言えば、注意を受けたから、というだけで済んでしまうのだが。
 当然、それだけであれば彼女は気にも留めないが、相手が悪かった。よりにもよって、生徒二人と自らの助手に言われてしまえば、流石の夢美とて反省せざるを得ない。実際のところ、その反省とやらは、彼女の膝丈よりも浅いものらしいが。
 それでも、先日注意をうけたばかりに、また同じ事を繰り返すことはしない程度に深くはある。姿勢だけでも反省をみせようとしているあたり、まだましなのかもしれない。


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  by mimes_jio | 2015-09-30 02:06 | 東方二次

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