カテゴリ:東方二次( 7 )

 

煙々、延々と、二人語り


 カシッカシッ、と二度ほど擦ってみても、ジッポが火を吐き出すことはなかった。そこでようやく、オイルが切れていることに気がつく。
 煙草を咥えていた全身真っ赤な服装の女性――岡崎夢美は、その整った顔を露骨に顰めて小さく呻いた。しまったー、と呟いてからジッポを懐に収める。
 彼女がいるのは、学内でも数少ない喫煙所の一つである。ガラスで囲まれた、決して広いとはいえない場所を、スタンド灰皿と大きな吸煙機がなおさら狭くしている。
 この科学世紀において、彼女の口元にあるような古くて煙臭い紙巻煙草を吸っている人物は稀も稀。今では煙を介さずにニコチンそのものを効率的、且つ周囲に気遣うことなく吸引できる、俗に言う『電子たばこ』のようなものが広く出回っている。
 もっとも、電子たばこという物自体はかなり昔からあったのだが、昨今のそれはさらに『良い物』になっているらしい。煙も出ず、熱もないので火傷や火事の心配もない。
 煙草以上にニコチンを効率的に摂取できるというそれは、その時の喫”煙”者達にとっては良くも悪くも衝撃的だった。当初はなにかしらの有害性や副作用など、不安の声も挙がっていたが、そもそも、彼らは喫煙者である。健康への害など、今更の話であった。
 実際問題、これといった有害性も見つからず――多少中毒性が高いという問題はあったが――、今ではほとんどの喫”煙”者達はそちらに移行した。それによって喫煙所の需要は激減し、設備は旧式なままにその領域だけがコンパクトにされてしまった。
 紙巻の煙草はもはや、一部の懐古主義や物好きしか嗜む者はいない。

 岡崎夢美は、その両方に当てはまる奇特な人物であり、そしてそれ故に、現在このような状況に陥ってしまっている。

 とはいえ、つい先日まではわざわざ喫煙所まで赴かず、彼女は自らの研究室で煙草を吹かしていた。それも結構な頻度で。そんな彼女がなぜ、今日に限って喫煙所にいるのかと言うと、全て説明するには少しばかり長くなる。
 端的に言えば、注意を受けたから、というだけで済んでしまうのだが。
 当然、それだけであれば彼女は気にも留めないが、相手が悪かった。よりにもよって、生徒二人と自らの助手に言われてしまえば、流石の夢美とて反省せざるを得ない。実際のところ、その反省とやらは、彼女の膝丈よりも浅いものらしいが。
 それでも、先日注意をうけたばかりに、また同じ事を繰り返すことはしない程度に深くはある。姿勢だけでも反省をみせようとしているあたり、まだましなのかもしれない。


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  by mimes_jio | 2015-09-30 02:06 | 東方二次

【花屋】幻想茶店【店主】


「ねえ、ちょっと! 聞いてるの?」

不機嫌そうな声が店内に響く。誰が発して、誰に向けた言葉なのかは一目瞭然である。
なにせ店内に見える人物は、たった二人だけだからだ。
一人は、気の抜けたような表情で虚空を眺める金髪の女性。
そしてもう一人は、カウンター席に腰掛け、不機嫌そうに顔をしかめる長身の女性だ。
察しがつくとは思うが、不機嫌そうな声の主は後者である。
前者はと言うと、その声に驚いたように目を瞬いた。

「あぁ、ごめんなさい。少しボーっとしてたわ」

さして悪びれた様子も無くそう言って、金髪の女性――この喫茶店のマスターはクスリと笑った。
その様子に、長身の女性――自称花屋は、不機嫌を通り越した呆れ顔になる。さらにわざとらしくため息をついて、ぼやいた。

「まったく、あなたが『お客さんが来なくて暇だ』なんて言うから来てあげたのに。私だって、いつも暇してるわけじゃないのよ」

「忙しいのにごめんね。だって、せっかくイメージチェンジしたのに誰も見に来ないんじゃ、もったいないでしょ?」

「イメージチェンジ、ねぇ・・・・・・」

そう言って花屋は店内を見渡す。
木製のもので統一された内装。暖色系の照明。カウンターには装飾の小物やワインボトル。
グルリと、いつも通りの店内に目を向けて、最後にマスターに視線を戻す。
そしてあっけらかんとして言い放つ。

「なにか変わったのかしら?」

「もう! わかってるくせに」

口を尖らせるマスターに、花屋はケラケラと笑ってみせた。


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  by mimes_jio | 2015-05-02 19:33 | 東方二次

【臨時店員】幻想茶店【精神学生】


冬も間近な寒空の下、もう日も暮れようかという時間。
少女が一人、細い路地を歩いていた。
薄暗い裏路地には不似合いな、美しいブロンドヘアの少女。

路地の突き当たり、少し広くなったその場所の隅。その目立たない場所に看板と扉があった。
扉には『CLOSED』と書かれた看板が、少し傾いた状態で吊るされている。
少女はそれを一瞥すると、なんの躊躇いもなく扉を押す。


――カラン・・・・・・


難なく扉は開き、すんなりと入店する。
ベルの音は聞こえたものの、店内から返事はなかった。


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  by mimes_jio | 2014-12-18 11:35 | 東方二次

【小説家】幻想茶店【花屋】


――カラン……

「いらっしゃいませぇ」


何時ものように、路地の奥にある目立たない扉を押して中に入ると、何時ものベルの音と間の抜けた声が聞こえた。
店の奥から聞こえるガサガサという音を聞きつつ、もはや私の指定席となった一番奥のカウンター席へと座る。

数ヶ月前に偶然見つけたこの喫茶店、隠れ家的な雰囲気がとても気に入り、暇な時や原稿が詰まった時などはいつも訪れている。

「毎度どうも、マスター」

「あら、貴女だったの。ゆっくりしていってね〜」

カウンター奥の保管庫と思しき場所から顔を出した金髪の女性。彼女がこの店のマスターだ。
若くして多彩な、下手をすれば私以上の知識を持ち、ユーモアのセンスや客の接待もそつなくこなす、まさに『できる女』といった人物だ。
なにより彼女の作るスイーツは、そこいらの喫茶店よりずっと美味で、それも私がこの店に通う理由の一つになっている。

「注文は決まっているかしら?」

「アールグレイをミルクで。それから、チーズケーキをお願いします」

「あら、今日は珍しくコーヒーじゃないのね」

「ええ、たまには紅茶が飲みたくて」

「わかりました。では少々お待ちください。在庫の整理が終わればすぐにお出ししますわ」

そう言ってマスターは店の奥、ではなくカウンターの床を開き、そこから床下へと潜ってしまった。

「そんな場所があったなんて……」

驚きと少しの呆れで、私はついそんなことを口走ってしまった。
数ヶ月間通っていたのに、全くそんなことは気がつかなかった。
やはりここに来ると飽きることがなくていい。



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  by mimes_jio | 2014-08-26 09:55 | 東方二次

秘封小話


「ねぇ、メリー」

「なにかしら? 蓮子」

「私、貴女のことが嫌いだわ」

「……へぇ」


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  by mimes_jio | 2014-06-28 12:00 | 東方二次

【物理学生】幻想茶店【店主】

とある喫茶店内、薄暗い証明の下で栗色の髪の少女がペンを片手にノートに向き合っている。テーブルの上にはノート以外にも、地図や資料が広げられ小さなテーブルがなおさら狭く見えた。

「うーん……」

時折、唸りながらペンを走らせる姿は、さながら課題に追われる学生のそれだ。
広げられた資料が他の客の迷惑になりそうだが、店内は閑散としており、少女以外の客は一人しか見当たらない。その客とも少女の席は離れているため、邪魔になることはないようだ。

「随分と悩んでるわねぇ。どうしたの?」

そこに空のボトルを持ったマスターが声をかけた。

「ん、いやね次の活動目標を考えてるんだけど、気になる場所とか噂なんかが多くてね。でも今月は資金的にも厳しいし」

「あぁ、例のサークルのこと。そうよねぇ、学生さんだと学校の都合なんかもあるだろうし、遠出しようとすると大変よね」

空いているテーブルにボトルを置き、マスターは少女と雑談する。

「そうそう。もっと気張って稼がなきゃだめだわ」

グッと伸びをしてから少女は資料を片付け始める。

「あら、もういいの?」

「ちょっと休憩よ。喫茶店にきてるのに、ずっと資料とにらめっこじゃ流石に失礼でしょ」

手際よく片付けを終えると、メニューを手に取りそれと向き合う。その顔は資料と向き合っている時よりも真剣に見えた。

「どうしようかなぁ……。最近いつもコーヒーだから、今日は紅茶で……いやでも……」

ブツブツと独り言を言いつつメニューと格闘する少女に、マスターは少し呆れ気味に苦笑した。

「今度はメニューとにらめっこかしら? 注文が決まったら呼んでくださいな。すぐに参りますわ」

そう言い残してマスターはボトルを手に、カウンターの奥へと姿を消した。


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  by mimes_jio | 2014-06-27 12:48 | 東方二次

【小説家】幻想茶店【店主】


街中を当てもなくフラフラと歩く。特に目的はない、俗に言う散歩というやつだ。それも平日の真昼間から。
と、いうのも

「はぁ……」

ここ最近、私はすこぶる調子が悪い。

体調が、というわけでは無く、仕事が進まないのだ。
たしかに、私は子供の頃から身体が弱く、よく病気に罹っていたし、一度は命に関わるような大病を患ったりもした。

だが不思議なことに、それの完治を境に体調を崩す事は徐々に減っていって、今ではたまに軽い風邪をひく程度だ。
と同時に、奇妙な夢を見るようになったのだが……これ以上は話題が大きくそれるため、またの機会にしよう。

それはさておき、今は体調云々よりも仕事についてだ。
私の仕事というのは、いわゆる小説家のようなことをしている。
決して有名なわけではないが、最低限の生活に困ることはない。

しかし、先に述べた通り最近はスランプ気味なのか、全く仕事に精がでない。
このままでは生活に支障がでてしまう。

ずっと机にむかっていても、どうしようもない。
ので、せめてもの気分転換にと、家を出て散歩に繰り出している次第だ。

「……ん?」

そうやって当ても無くぶらついていると、気づいたときには人の気配とはかけ離れた裏路地に入り込んでいた。
そんな場所で、あるものが私の目に止まった。

「『幻想茶店』、こんな場所に、喫茶店が……?」

ちょっとした広場のようなその場所の片隅に、看板と扉が隠されるようにそこにあったのだ。
『OPEN』という吊り札が掛けられていることから、恐らくは廃店舗ではない、はず。

好奇心を煽られた私は、半ば無意識にその扉に手をかけた。


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  by mimes_jio | 2014-05-18 03:25 | 東方二次

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