【秘封倶楽部】小話【クリスマス】


クリスマス、聖なる夜。なんともロマンチックな響きである。

街はいつもの無機質さを、色とりどりのイルミネーションで着飾り、何人ものカップル達がそれらに心を躍らせる。

そんな鮮やかに彩られた、街中のとある喫茶店。秘封倶楽部の二人もまた、この聖なる夜を楽しんでいた――






はずもなく、

「なぁにがクリスマスよ! まったく、イエス・キリストの聖誕祭にいちゃこらしちゃってまー」

「蓮子、みっともないわよ。周りが羨ましくなる気持ちはわかるけど、ここで喚くことじゃないでしょ」

宇佐見蓮子は随分とアルコールがまわり、普段からよく回る舌にさらに拍車がかかっている。その口でひたすらに愚痴をこぼしていた。
それをなだめるのはマエリベリー・ハーン。彼女もまた、この状況には少しばかり不満はあった。
周りがカップルだらけなこともそうだが、なにより目の前でひたすらに呻く友人に対する不満だ。

「なにもこんな日に愚痴ばっかりっていうのは、さすがにあなたの品性を疑うわ」

さらに言うと、周りからの視線が痛かった。蓮子が愚痴をこぼすたび、それを聞いたカップル達が哀れむような視線を向けてくるのだ。
そも、彼ら彼女らには何の罪も無い。むしろこうしてネチネチと悪態をつくほうが、よっぽど罪深い。
しかしそれでも、宇佐見蓮子は止まらなかった。

「ひんせいぃ? そんなもの持っていたって仕方がないのよ! そもそも、いまさらお上品にしたところで、どうせ私の元に男がくるわけで、も・・・・・・うぐぅ・・・・・・」

どうやら、自分の言葉で自分を突き刺してしまったらしい。背もたれにぐったりと寄りかかり、力なく空を仰いだ。
だらしのない友人にため息をつきながら、マエリベリー・ハーン――メリーは立ち上がる。

「そんなこと言ってるからでしょ。ほら、もう帰るわよ」

「うぅー・・・・・・私に、私に愛を、温もりをぉ」

うわ言のように呟く蓮子に肩を貸し、会計を済ませる。本来なら割り勘の予定だったが、割る相手がこれなので仕方なく自分の財布から。
当然、料金はあとで請求するつもりだ。迷惑料も込みで。


――――――――


泥酔した友人を担いだブロンドヘアの女子というのは、なかなかに注目を集めるらしい。
すれ違う人が一様にこちらを振り返る。できるなら、もっと違う形で経験したかった。

「めりぃー」

「あーもう、呻く元気があるなら自分で歩いてよ」

「むりぃー・・・・・・」

全く、いつもはしっかりしてるのに、酔うとこれだ。普段ならそこまで嫌な気はしないんだけど、今日は話が違う。
夜も深くなってきて、いつもであれば人通りも少なくなるが、流石はクリスマス。まだまだ人が多い。
それもほとんどがカップルとなれば、とてもいたたまれない気持ちになる。しかし肩に重石がのしかかり、早足に歩くことさえ精一杯だ。
いっそこの場に捨て置いてしまってもいいんじゃないかと、そんな悪い考えが浮かんだりもしたけど、

「寒いねぇメリー」

「・・・・・・そうね、蓮子」

こんな寒空の下に置いていったら、それこそ風邪ではすまなくなってしまうかもしれない。
仕方なく、そのままズルズルと引きずりつつ、彼女の住処へと足を運んだ。


十数分も歩けば、ようやく蓮子のマンションに着いく。
いつもなら数分程度の道のりが、一人がまともに歩かないせいで倍以上の時間がかかってしまった。
ここまで来るに交通機関を使わずにすんだのは、幸いだったのか、不幸だったのか。
ともかく部屋に入り、ベッドへと家主を放る。ごろりと転がると、彼女はすぐさまくぅくぅと寝息を立て始めた。

「せめてシャワーぐらい浴びてから寝なさいよ・・・・・・って言っても、どうせ聴こえてないのよね」

そう口にしても、返ってくるのは寝息だけだ。
蓮子の寝顔を見つめながら、今日の彼女の言葉を思い出す。

『いちゃこらしちゃってまー』

周りのカップルに嫉妬する蓮子。普通の少女なら、当然のことだろう。

『どうせ私の元に男がくるわけで、も・・・・・・うぐぅ・・・・・・』

蓮子もやっぱり、彼氏とか、ほしいのかな。

『私に、私に愛を、温もりをぉ』

その愛って、温もりって――

「私じゃ、だめなのかな?」

無意識に、そんな言葉が口からこぼれた。
途端に気恥ずかしくなって、顔が火照り出す。幸か不幸か、その言葉の届け先は顔を背けて寝息を立てている。
一つ、深呼吸をして、改めて口を開く。

「今日はお疲れ様。あなたはああ言ってたけど、私は蓮子といるのが一番なのよ」

彼女の髪をひとなでして、また深呼吸。

「つまり、さ。私はあなたが――」

そこからは、言葉にしないことにした。言ってしまうと、もう止まらなくなってしまいそうだったから。

「じゃあね。明日からもよろしく、バカ蓮子」

それだけ言い残して、部屋を後にする。
合鍵を使って戸締りをして、私は自宅へと帰ったのだった。


――――――――


一人になった部屋で、私はぽつりと呟いた。

「聴こえてるし、そんなのとっくに知ってるわよ。バカメリー」

顔が火照ってるのは、きっとまだアルコールが残ってるせいだ。






――――あとがき――――

というわけで、クリスマス秘封小話です。
三時間という短い時間で書き上げたので、少しお粗末かもしれません。
いやーでも、人間やれば出来るものですねぇ。
クリスマスも終わりかけですが、楽しんでいただければ嬉しいです。



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  by mimes_jio | 2014-12-25 23:49

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