【臨時店員】幻想茶店【精神学生】


冬も間近な寒空の下、もう日も暮れようかという時間。
少女が一人、細い路地を歩いていた。
薄暗い裏路地には不似合いな、美しいブロンドヘアの少女。

路地の突き当たり、少し広くなったその場所の隅。その目立たない場所に看板と扉があった。
扉には『CLOSED』と書かれた看板が、少し傾いた状態で吊るされている。
少女はそれを一瞥すると、なんの躊躇いもなく扉を押す。


――カラン・・・・・・


難なく扉は開き、すんなりと入店する。
ベルの音は聞こえたものの、店内から返事はなかった。




――――――――


構わずに少女は二人がけのテーブル席に腰掛けた。
メニューを眺めつつ少し待つと、随分と背丈の低い、それでいて少し顔色の悪い少女がノソノソとカウンター奥から顔を出す。
寝癖のようなウェーブのかかった髪は、ごく薄い青紫色を帯びている。
気だるげな仕草をしているが、純白のシャツに黒いベストという制服姿から、おそらくウェイターかなにかであることが伺える。
カウンター越しに少女を見つけると、眠そうな目を擦って口を開く。

「おかしいな、ちゃんと看板を出して・・・・・・ってなんだ君か。いらっしゃい」

相手が誰なのかわかるなりギョッとした顔をして、咄嗟に愛想笑いを浮かべる。しかし気だるそうな雰囲気はむしろ、より一層増していた。
それをみて苦笑しつつ、少女は言う。

「いつからここはあなたの仮眠所になったのかしら? またマスターにどやされても、しらないわよ」

かくして、やはり彼女はウェイターだったらしい。少女の言葉に、力なく笑って答える。

「はは、は、返す言葉も無いよ。すまないが、少しだけ待ってくれ」

そう言って、彼女はまたカウンター奥に姿を隠した。
また少し、待つといくらか顔色が良くなったウェイターが姿を表した。
薄紫の髪は後ろで結って一纏めにし、ようやく彼女の顔がしっかりと見て取れる。やはり、口調のわりに随分若い。幼いと言っても差し支えないだろう。

「それにしても、久しぶりね。前に会ったはいつだったかしら」

「一月半くらい前かな。まあ私は臨時に呼ばれるだけだからね。あまり顔を出さぁいひ・・・・・・」

ウェイターは欠伸交じりに答える。
カフ、と口を閉じてから、小さく「失礼」とだけ。改まった様子で少女に向き、たずねる。

「それでは、ご注文は?」

「アッサムをミルクで」

「ん、茶請けはどうする? アッサムのミルクなら大概なんでも合うけど」

もう一度メニューを見て、少しだけ悩む仕草をしてから少女は答える。

「じゃあそうね、モンブランをお願いできる?」

「よろしい、承った。それではしばしお待ちを」

そう言うとウェイターはカウンターに戻り、準備を始める。
湯を沸かす間、ケーキの準備をする片手間に少女と言葉を交わす。

「それにしても、こんな早くからの来店なんて珍しいじゃないか。なにかあったか?」

「学校が早く終わったから、それだけよ。あなたこそどうしたの? 随分調子が悪そうだけど」

「急用ができたからって、折角の休日に叩き起こされてね。まあ、あいつ――マスターには世話になってるから、邪険にもできないさ」

「それはご愁傷さま、ね」

くすくすと笑いつつ、少女は労いの言葉を送る。ウェイターも不快そうな素振りは見せず、むしろ愉快そうな笑みを浮かべる。

そんな風に雑談をしながらも、彼女の手際は衰えない。
湯が沸くと、すぐに火から外して、ティーポットに勢いよく注ぎいれる。蓋をし、茶葉を蒸らす間にケーキを仕上げる。
あらかじめ用意されたマフィンの上に、ホイップクリーム。
さらにその上にマロンクリームを絞る。これは今しがた作っていたもの。
最後に甘く煮た栗を半分に切り、てっぺんにトッピング。
これで完成だ。


――――――――


「お待たせ」

ウェイターがティーセットとモンブランを手に、少女のテーブルへむかう。
アッサムの芳醇な香りが、少女の鼻に届く。
テーブルに並べられるそれらに、少女は待ち遠しそうに目を向ける。が、

「・・・・・・なんで二人分用意してるの?」

カップとモンブランが、それぞれ二ずつ並べられたのだ。
そしてウェイターは向かい側の席に腰を下ろす。

「私の分さ。なに、御代は君の分しかとらないから安心してくれ」

「いや当たり前でしょ」

そもそも、そういう問題じゃないような。という言葉を、少女は飲み込む。
言っても無駄だと、なんとなくそう思ったからだ。
渋々、合い席を認めるとウェイターはまた愉快そうに笑った。

「まあ、まあ、そう邪険にしてくれるなよ。そんなことより――相方と、なにかあったのか?」

「な、なにを・・・・・・」

ウェイターの突飛な問いかけに少女は戸惑う。
じつ、と見据えるような視線から、思わず目を反らせてしまう。

「気づかないと思ったかい? いつもは相方と一緒なのに、今日は珍しく君一人。しかもこの曜日はサークル活動があったはずだ」

「なんでそんなこと知ってるのよ」

「前に君らが話していたんじゃないか。この狭い店内じゃ、会話なんて全部筒抜けだよ」

ケラケラと笑いながら言うウェイターに、少女は不服そうな視線で応えた。
視線を向けられた本人はというと、自分のカップに紅茶を注ぎながらモンブランを齧っている。いささか、接客をする態度とは思えない。
少女は一つ、ため息をついて呆れたように呟く。

「盗み聞きなんて悪趣味ね」

あまりに清々しい無礼さに、注意する気力もなくなってしまったようだ。
しかし少女のその言葉も、この無礼者の耳には念仏も同じらしい。

「すまないね。なまじ耳がいいもんで」

そう言いながら今度は紅茶を啜る。ミルクは入れず、ストレートで。
一息つくと今度はまたウェイターがたずねる。

「で、なにがあったんだ。よければ相談に乗るけど?」

「あなたには、関係ないでしょ」

少女はつい、とそっぽを向いて口を尖らせた。
しかしウェイターはなおも食い下がろうとする。

「いやいや、大いに関係ありさ。お客様に満足していただかなければ、ここの店員としての名が廃る」

「そう思うならまずその接客態度を改めるべきね。マスターも他のクルーの人も、最低限の礼節は保ってるわよ」

「でも、君はこのほうが気軽に喋れていいんじゃない?」

ニカリ、と無邪気な笑顔をみせる。釣られて少女の頬も自然と緩む。
まあ確かに、気軽に接してくれるほうが喋りやすいのは事実。それに今更態度を改められたら、逆に戸惑ってしまいそうだ。
その笑顔に免じて、少女は口を開いた。

「わかったわよ……まあちょっと、あの子と喧嘩しちゃって。些細なことなんだけど、ついカッとなって、そのまま。ね」

ウェイターは黙って耳を傾け、頷いている。それはどうやら続きを促しているらしい。
少女はぬるくなった紅茶で口を湿らせて、続ける。

「ほんとに、なんであんなことで。いやでも、あれは向こうが悪いのよ! あ、あんな、人が気にしてること、を……」

途中、少し声を荒げるが最後はしりすぼみになり、ウェイターの地獄耳でも聞き取れないほどの小声になった。
不思議そうな顔をするウェイターと、モニョモニョと何事か呟く少女。
待ちきれず、ウェイターがたずねる。

「ん? なんだ、言いにくいんなら無理に言わなくてもいいけど」

「う、うぅ……」

小さく呻くと、小声で、少しずつ、少女は言葉を発した。

「さ、最近ちょっと、体重が増えてきちゃって……それに気づいたのか、あの子に『あなた、最近ちょっと太った?』なんて言われたから……」

一瞬の静寂。
それを破ったのはウェイターが堪えきれずに噴き出した声だった。
一度決壊すると、抑えが効かなくなったのかウェイターの笑い声が店内に響く。

「アッハハハハ! なんだそんなことか! 道理でそれに手をつけないわけだ。なるほどなぁ、ハハハっ!」

「なによ! こっこれでもけっこう真剣に悩んでるのよ?」

顔を真っ赤にしながら訴えるが、それでもウェイターはまだ笑い続ける。
ヒィヒィと息を切らし、テーブルを叩き、そうしてひとしきり笑った彼女の目の前には、テーブル突っ伏し、すすり泣く少女の姿があった。


――――――――


「いや、いや、すまなかった。申し訳ない」

謝罪の言葉と共に、ウェイターが頭を下げる。
少女はテーブルに突っ伏したままで、その行動が伝わっているのかは判断することができないが。

「しかしそうか、まあたしかにデリカシーのない台詞ではあるな」

「あなたも大概だけどね……」

「うっグ……」

ポツリと聴こえた少女の言葉が、ウェイターに突き刺さる。
泣き声は止んだものの、少女の声は消え入りそうなほど掠れていた。それがなおのこと、ウェイターに罪悪感を覚えさせた。
バツの悪い顔をしつつ、彼女は再度頭を下げる。

「本当に申し訳ない。思っていたよりしょうもな……深刻な話だったものでね」

咄嗟に言い直しはしたものの、聞き捨てならない言葉が聴こえた。
しかし、少女にはもはや突っ込む気力も残っていないらしい。

「……そこまで気に病むこともないだろう。彼女だって、君のことを気にかけての発言だったろうさ」

「そうかなぁ……」

赤くなった眼をこすって、少女が顔を上げる。その顔には涙の痕が浮かんでいた。
苦笑いしつつハンカチーフを少女へと手渡し、また口を開く。

「そうとも。むしろ君らほど気心のしれた仲だからこそ、そうやって言えたんだろうよ」

一旦言葉を区切り、最後の一欠片になったモンブランをつまむ。そして名残惜しそうに、口の中に放り込む。
やさしいマロンクリームの甘味と、それを補うようなホイップの強い甘味が、口の中で混ざり合う。
しかしそれは、決してくどい甘味ではなく、絶妙なバランスで新しい甘味となった。
ゆっくりと咀嚼し、ゆっくりと喉に送ると、甘く香ばしい栗の香りが鼻を抜けた。

「というか、君も早とちりなんだよ。あの聡明な彼女が考えもせず、ただ君を侮辱するはずがないだろうに」

くッとカップの冷めた紅茶を飲み干した。
アッサムの香りと力強い風味が、口内を洗い流す。
やはりミルクが欲しいな、などと彼女は考えたが、喉元を過ぎてしまった後だ。
さて、と立ち上がってティーセットと空いた皿をカウンターへと下げる。

「さぁさ、冷めた紅茶を入れなおそうかね。その分のお代は私が持つからさ」

「ありがとう。それと、ごめんなさい」

申し訳なさそうに言う少女に、ウェイターはヒラヒラと手を振って応える。

「なに、礼には及ばんさ。それよりも、早くそのモンブラン、食べてしまったほうがいいかもね」

そう言うや否や、店の扉が少し勢いよく開かれる。


――カララン……


「見ぃつけた」

「噂をすれば、だね」

入って来たのは、栗色の髪に黒のハットを乗せた少女だった。
少し呼吸が荒いのは、気のせいではないだろう。
ウェイターは彼女を見やり、言う。

「いらっしゃい。君の探し者なら、そこに居るよ」

「ええ、ちゃんと見えてるわ」

一方栗毛の少女はウェイターではなく、ブロンドの少女に目を向けていた。
そのままゆっくりとその席まで歩みよる。
一瞬、ブロンドの少女が顔を背けるのを見て足を止めたものの、また歩を進める。
向かいの席にたどり着くと、無言で腰を落ち着けた。
俯いて黙り込むブロンドヘアに向かって、栗毛が言う。

「……ねえ、なんでこっち向いてくれないの?」

その言葉の後、しばしの沈黙が流れる。
聞こえるのは水の沸く音と、ウェイターが食器を洗う音だけだ。
しばらくして、言葉が返される。

「だって今、私、酷い顔だから……」

そしてまた、沈黙。


――ではなく、栗毛が大きなため息をついた。


それに驚いて顔を上げ、目に入ったのはため息の主の、見慣れた相方の仏頂面だった。
眼に浮かんだ涙を見ると、向かいの少女は笑ってみせた。

「あなたの泣き顔なんて、もう何度も見てるじゃない。それに、今回の原因は私なんだからさ。慰めるくらいのことはさせてよね?」

そう言って手を伸ばし、親指でその涙を拭って見せた。
途端にまた、涙が溢れ出す。

「わっ! ちょっと!」

拭いきれなくなった涙が、指を伝い手を、頬を濡らした。
咄嗟に手元のハンカチーフを、ブロンドの少女に渡す。

「ほら、これで涙拭いて。もー相変わらず泣き虫ね」

「誰が泣かせてると思ってるのよぉ……」

「よしよし、ごめんってば」

栗毛の少女が胸を貸して、そのブロンドの髪を撫でる。
その様子に、ウェイターがカウンター越しにニヤニヤと嫌らしい視線を送っていた。

「おーおー。惚気るのはけっこうだけどさ、私が観てるの、忘れないでほしいよねぇ」

ウェイターが言うと、栗毛は顔を赤くし、ブロンドはさらに顔を埋める
彼女はそれを横目に、三人分のティーカップを用意してそこに紅茶を注ぐ。
片手間、いつまでも残っているモンブランを指差して言う。

「それよりも、いい加減に私お手製のモンブラン、食べてくれてもいいんじゃないか?」

ウェイターの言葉でようやく気がついたらしく、栗毛の少女はテーブルに置かれたものに目を輝かせた。

「これ、私がいただいちゃっていいかな!?」

「だ、ダメよ! 私が注文したんだから!」

すぐさまブロンドの少女がそれを止めにかかった。
先ほどまでとの豹変ぶりと、その必死な形相に、他二人がそろって目を丸くする。

「あ、う、うぅ……」

「くっふ……」
「ふぐっくく……」

また赤くなって机に突っ伏した少女は、またしばらく二人に笑いものにされるのだった。







――あとがき――

おっっっっっっ久しぶりの更新でございますっっっっっ!!!!!!!!!
いやー長かった。なんでこんなに長くなったんだ。
書きたいもの詰めこもうとすると大変ですね。
すこしは自重することを覚えましょう。覚えます。はい。

今回はちょっぴりシリアスっぽい雰囲気を出す努力をしてみました。
それなりに良い感じにはなってるんじゃないかなぁ……どうだろうか。
まあ言うほどたいしてシリアスでもないのですが。

そして今回もまたまた新キャラなわけで。
今回は臨時店員さん!! たまーに呼び出されて店番をさせられる苦労人っぽい人です。
いいですねえ、私好みの良いキャラをしてくれています。
まあ私が書いているから当然なんですけども。
お気に入りキャラその3ってところですかね。1と2は……皆様の想像にお任せします。
過去の作品とか読めばわかるとおもうヨ!!!!

それにしても、流石に名前出してなくてもここまでヒントが出てるとバレバレですねぇ。
今後も名前は出さない方向で進めるつもりですけどね。うへへ、ツライ(((

さて、少しお話が変わりまして……
先月末の秋季例大祭にて、頒布をお願いした予告ペーパーを公開しております!!
それがこちら【id=47288429
みての通り(?)秘封とSCPのクロスオーバーっぽいものが出ます!! 出します!!!!
出せると、いいな……
詳細はリンク先へGOだ!!!!!

こんなもんですかね。
感想とかもらえると筆者がTLで跳ね回って喜びます。
ではまた、今度はがんばってクリスマス合わせでなにか書いて更新をしたいです。
寒くなってきたので、皆様お身体に気をつけて。
オタッシャデー!!!!




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  by mimes_jio | 2014-12-18 11:35 | 東方二次

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