【物理学生】幻想茶店【店主】

とある喫茶店内、薄暗い証明の下で栗色の髪の少女がペンを片手にノートに向き合っている。テーブルの上にはノート以外にも、地図や資料が広げられ小さなテーブルがなおさら狭く見えた。

「うーん……」

時折、唸りながらペンを走らせる姿は、さながら課題に追われる学生のそれだ。
広げられた資料が他の客の迷惑になりそうだが、店内は閑散としており、少女以外の客は一人しか見当たらない。その客とも少女の席は離れているため、邪魔になることはないようだ。

「随分と悩んでるわねぇ。どうしたの?」

そこに空のボトルを持ったマスターが声をかけた。

「ん、いやね次の活動目標を考えてるんだけど、気になる場所とか噂なんかが多くてね。でも今月は資金的にも厳しいし」

「あぁ、例のサークルのこと。そうよねぇ、学生さんだと学校の都合なんかもあるだろうし、遠出しようとすると大変よね」

空いているテーブルにボトルを置き、マスターは少女と雑談する。

「そうそう。もっと気張って稼がなきゃだめだわ」

グッと伸びをしてから少女は資料を片付け始める。

「あら、もういいの?」

「ちょっと休憩よ。喫茶店にきてるのに、ずっと資料とにらめっこじゃ流石に失礼でしょ」

手際よく片付けを終えると、メニューを手に取りそれと向き合う。その顔は資料と向き合っている時よりも真剣に見えた。

「どうしようかなぁ……。最近いつもコーヒーだから、今日は紅茶で……いやでも……」

ブツブツと独り言を言いつつメニューと格闘する少女に、マスターは少し呆れ気味に苦笑した。

「今度はメニューとにらめっこかしら? 注文が決まったら呼んでくださいな。すぐに参りますわ」

そう言い残してマスターはボトルを手に、カウンターの奥へと姿を消した。




――――――――


「あー。つっかれた〜」

少女は再度伸びをしてから、またメニューに目をむける。

「ここって辺鄙な場所でやってるわりには、メニューの種類がやけに豊富なのよね。毎回選ぶのに時間がかかっちゃうわ」

愚痴のようにも聞こえるが、言葉の端には楽しそうな響きがあった。何度も同じページを見返している様子は、本当に楽しんでいることの現れだろう。
少しの間メニューを見つめてから、やっとこさ少女は顔を上げた。

「んー、やっぱり紅茶にしようか。となるとスイーツは……マドレーヌ辺りかな、っと。マスター」

少女がカウンターの方へ声をかけると少し間をおいて、

『はぁ〜い』

と気の抜けた声が響き、すぐにマスターが少女の席まで駆け付ける。

「ご注文、お決まりですか?」

「えぇ、ダージリンとマドレーヌ、それとナッツクッキーもいただこうかしら」

「はい。紅茶はいつもどおり、ストレートでいいわね」

「うん、それでお願い。それと、しばらくしたら相方もくるからマドレーヌは二人分用意してもらっていい?」

「えぇもちろんですわ。相方さんの分の飲み物は、本人が来てからでいいわね?」

「そうしてもらうと助かるわ。彼女、そういうのにうるさいから」

「フフッ、かしこまりました。それでは少々お待ちください」

マスターはカウンターへと戻り、紅茶の準備をしはじめた。
一方少女はノートを取り出し、それを読み返して時折何かを書き込んでいる。手のひらサイズのメモ帳を取り出して、それにも同じように書き込む。
しばしの間、少女がペンを走らせる音が響いていた。


――――――――


そうしてしばらくすると、マスターが菓子皿とティーセットを手にカウンターから出てきた。それに気付いた少女はノートとメモ帳をテーブルの隅へ寄せる。

「お待たせしました。ダージリンとクッキーになります」

「ありがとマスター」

そう言って少女は紅茶のカップに口を寄せる。一口だけ口に含み、少し味わってから飲み込む。

「……相変わらずいい葉を使ってるわね。こんな場所でお店開いてるのがもったいないわ」

「あらそう? 知り合いの子がたまにおすそ分けしてくれるのよ。趣味で作ってるらしいの」

「羨ましいわね。私にも分けてほしいくらいだわ」

「なんなら今度もらえた時にでもあげましょうか? もちろんお代は頂くけど」

「ちゃっかりしてるわね、そういうところがマスターらしいけど。ところでマドレーヌは、あとどの位かかりそう?」

「下準備も終わってあとは焼くだけだし、15分くらいかしら? 出来上がり次第お持ちしますわ。--っと、少しあちらのお客様にいってくるわ」

「いってらっしゃーい。帰ってくる頃には出来上がってると嬉しいね」

「はいはい」

なだめるように言って、マスターは席を離れた。
それを見送ってから少女は一人、ティータイムを楽しみはじめる。


――――――――


ザクっという少し固そうな、しかし軽快な音を立てながらクッキーをかじる。
砂糖が控えめにされ、ナッツの甘さと香ばしい香りが引き立てられ、さらにそれがダージリンの渋みをうまく抑えてくれる。

「たまらないわ。やっぱり、今はここが一番かな」

一人呟いて、またかじる。
数個のクッキーが少女の口へ消えた辺りで、またペンの音がなり始める。

「やっぱり糖分は大事ね。さっきより、頭が冴えてる気がするわ」

まあ気がするだけだけど、とまたも独り言ちてから、クッキーを口へ放り込む。
それがなくなったら、次は紅茶に口をつける。
何度かそれを繰り返していると、手持ち無沙汰のマスターが話しかけてきた。

「調子はどうかしら?」

「そこそこ、とでも言っておこうかしら。まあ、私一人じゃできることもあまり無いからね」

「相方さん待ち、ね。貴女が先にくるなんて珍しいものねぇ」

「確かにそうかも。そういえば、さっき持ってたボトルは何だったの? やけに高級そうなラベルだったけど」

「あぁ、あれはここで働いてる子に貰ったワインのボトルよ。お店の装飾にいいかと思って、譲ってもらったの」

「ふぅん……。中身はもうないのよね」

「残念ながら、もらったのも既に空になったボトルだけだったから」

「物好きねぇ。でも確かに、見栄えの良いボトルだから装飾にはいいかも。あわよくば中のワインもいただきたかったけど」

「ならその子がいる時に頼めばいいわ。なんでも、結構珍しいお酒だから普通じゃ手に入りにくいんですって」

「それだと個人的に入手するのは難しそうね……」

二人が会話に熱中していると、


――カラン……

「いらっしゃいませぇ」


ベルの音とともに金髪の少女が入店してきた。そして栗毛の少女を見つけると、すぐにその席へ向かっていった。
どうやら先程言っていた相方とは、彼女のことらしい。

「私より早く来てるなんて珍しいわね」

その言葉を聞いて、マスターは思わず吹き出しそうになるのを堪えていた。
その様子を一瞥してから、栗毛の少女は応える。

「そう? たまにはそんなこともあっていいじゃない」

その応えを聞いてから、金髪の少女は栗毛の少女の向かいへ座る。

「たまに、じゃなくなるとありがたいんだけどね。マスター、私もダージリンをお願い」

「はいはーい。少々お待ちくださいね」

「まあでも、今日は遅刻しなかったし褒めてあげるわ」

「ありがと。なんなら他にご褒美を貰えてもいいんじゃないかなー、なんて」

「残念だけど、それは今までの遅刻分を帳消しにしてからね」

「手厳しいわね。流石私の相棒ってところかしら」

「はぁい、お待たせ。こちらダージリンとマドレーヌよ」

「待ってました!」

新しいお菓子を前に、少女は目を輝かせる。
金髪の少女も同じように、期待の視線を向ける。

「お、ちゃんと二人分あるのね。ていうか、あなたはさっきまで食べてたんじゃないの? また太っても知らないわよ」

呆れたような言葉もお構いなしに、栗毛の少女はマドレーヌへ手を伸ばす。

「大丈夫大丈夫。そんなことより、次の活動のことなんだけどーー」




――カラン……

『ありがとうございましたぁ』


ここは、ある町の路地に、ひっそりと開いている喫茶店。

その名の通り幻想のような、まるで意識の隙間にあるかのような、そんな場所。

あなたも一度、探してみてはいかがだろうか?





――あとがき――

お読みいただきありがとうございます。

前回の更新から大分空いてしまいました。
今回もなかなか苦労しました。毎度、話を書き始めると冗長になってしまうのを直したい。ぐぬぬ……
それと執筆速度を上げていきたいですね。

さて今回の話、実は前回のものと合わせて一つのプロローグになってます。一つでまとめろって?無茶言うなぃ。
主な登場人物も大方出したし、次回からもこんな感じのグダグダした、あわよくばちょっとオシャレな雰囲気を醸し出していければなー、とか考えてます。

次回もよろしくお願いしますー。


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  by mimes_jio | 2014-06-27 12:48 | 東方二次

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